人はウーパールーパーのように再生することは可能なのだろうか?
人はウーパールーパーのように再生することは可能なのだろうか?
参考文献
Axolotl Genome Slowly Yields Secrets of Limb Regrowth | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/axolotl-genome-slowly-yields-secrets-of-limb-regrowth-20180702/
ウーパールーパーは驚異の再生能力をもっており、これはウーパールーパーのもつ幹細胞によるものです。この再生メカニズムを人間と比較することによって将来的に人間に応用することができるのでは?と日夜、研究者が研究しています。
今回科学サイトのQuanta magazineがウーパールーパーの再生についての研究の現状をまとめていたのでブログに書いてみようと思います。
人間がけがを負った場合はマクロファージによって即座に傷跡が作られ組織の再生は行われません。一方で、ウーパールーパーではマクロファージが死細胞を取り込んだ後、幼胚の細胞集団である「芽体」が損傷した組織を再生させます。そのため、ウーパールーパーは切断された腕や心臓を再生することができます。
https://twitter.com/sotonami?lang=ja
<ウーパールーパーのゲノムはどのように医療に役に立つのか>
ウーパールーパーのゲノムは320億塩基対で、ヒトゲノムの10倍以上あります。ドイツなどの国際研究チームがゲノムを解読しましたが、解読された生物のゲノムの中で最大であったそうです。
Tanaka氏は、四肢の再生において、人間にはないと思われる比較的数多くの遺伝子がウーパールーパーには見られると言っており、これらの遺伝子の調査は、再生能力の理解へと導くかもしれません。
興味深いことに、Monaghan氏によるとウーパールーパーの再生組織はガン細胞と似ている点が多いことから、ウーパールーパーの再生された四肢の組織環境が、どのようにして細胞をコントロールしているかを研究することで、ガン細胞の周囲の環境をコントロールし「通常通りに振る舞うこと」を強いることもできる可能性があるそうです。ただし、癌と幹細胞に関係性があることから、頻繁に再生させることが発がんのリスクを高める可能性があるとも考えられます。一方で、ハーバード大学医学大学院の准教授であるJessica Whited氏は「興味深いのは、ウーパールーパーは体を再生させてもガンになることがほとんどないということです」「一方で、人間は常にガンにかかっています」と述べました。
この点においては、1952年に科学者のCharles Breedis氏が500匹以上のイモリの腕に発ガン物質として知られるコールタールなどを注入するという実験を行いました。結果として500匹のうち腫瘍ができたのは2匹で、残りのほとんどは追加の腕をはやしたという反応を示しただけでした。
なぜ、多くの生物で進化の過程でウーパールーパーのような再生能力を失ってしまったのか?四肢の切断を余儀なくされた人の中には、神経繊維の成長がコントロールできずに神経腫という腫瘤ができてしまう人もいますが、これは古代生物が有していた再生能力の名残ではないかという見方もあるようです。これまでの研究から、我々の認識以上に人間は再能力を持っていると考えられており、いつの日か人間の体を適切な状態に保てば、四肢を再生出来る可能性が出るかもしれません。
■
オリゴデンドロサイト前駆細胞の老化プロセス
参考文献
Niche stiffness underlies the ageing of central nervous system progenitor cells | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1484-9
Scientists reverse aging process in rat brain stem cells -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/08/190814130726.htm
多発性硬化症について
ケンブリッジ大学のWellcome Trust-MRC幹細胞研究所に勤めるKevin Chalut氏らの研究チームは恒例のラットから硬化したOPC(オリゴデンドロサイト前駆細胞)を取り出し、若いラットの脳組織に移植したところ、硬化したOCPが元の柔軟性を取り戻し、若い細胞のように活発に分裂し始めたとのことです。
さらに、研究チームは若いラットの脳組織と同じ柔軟性のある素材と、老いたラットの脳組織と同様に柔軟性を欠いた素材を開発して、2つの素材の上でOPCを培養すると、若いOPCであっても硬い素材の上で培養すると分裂能は喪失することが分かりました。
また、OPCからPIEZO1蛋白をを除去し硬い素材の上で培養したところ、若い素材の上で培養した時と同様に分裂することが分かりました。
*PIEZO1蛋白は周囲組織が柔らかいか、硬いかを検知するたんぱく質です。
下記のサイト情報によるとPIEZO1蛋白は細胞内の液圧変化を検知するようです。
piezo1について
すなわち、高齢のOPCであったとしても、周囲環境(若者のように柔らかいか、高齢者のように硬いか)に応じて分裂性を有するということです。
<ブログ著者の感想>
細胞がPIEZO1のようなイオンチャネルを介して周囲組織を検知し分裂するかどうかを決定するという知見は興味深いと思いました。どのようなメカニズムで細胞外環境を検知して、細胞分裂を決定するかという詳細を知る必要性を感じました。
バイオロボットが開発される。 ~物質の運搬・自己再生を行う~
バイオロボットが開発される。 ~物質の運搬・自己再生を行う~
参考文献
A scalable pipeline for designing reconfigurable organisms | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2020/01/07/1910837117
Team Builds the First Living Robots | UVM Today | The University of Vermont
https://www.uvm.edu/uvmnews/news/team-builds-first-living-robots
Scientists use stem cells from frogs to build first living robots | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2020/jan/13/scientists-use-stem-cells-from-frogs-to-build-first-living-robots
SF漫画や映画などでナノロボットが体を治療を治療するシーンを見たことがある人もいるかと思いますが、ジョッシュ・ボンガード氏と、タフツ大学の生物学者マイケル・レビン氏らの研究グループがカエルの胚の細胞から再構成された生きたロボット「Xenobot(ゼノボット)」を開発したことが明らかになりました。
このxenobot(ゼノボット)は人体内の患部に薬剤を輸送したり、血管内に蓄積された老廃物を除去して動脈硬化を防いだりすることができると期待されています。
研究グループは生きた「皮膚細胞」と「心筋細胞」をどのような形状や構造で組み立てれば効率的な運動が可能なのかを独自の「進化アルゴリズム」に基づいたシミュレーションを実施し、数千種類のデザイン候補の中から選び出しました。
そして、アフリカツメガエルの生きた胚から幹細胞を採取して培養し、極小サイズのピンセットと電極を使用して細胞を成形し、デザイン通りのロボットを製造しました。
研究グループの一人であるボンガード氏によると、多くのロボットは金属、コンクリート、プラスチックで作られているため人体に有害ですが、生きている細胞であれば、活動が終われば分解されるため、人体や環境への負荷が低いとのことです。
今後、研究グループは高度なXenobotの開発をするだけでなく、Xenobotを分析することで生物の成り立ちを解明し、癌や先天性欠損、加齢性疾患などへの理解を踏めていくということです。
また、オックスフォードの倫理センターの研究開発部量のトーマス・ダグラス氏はXenobotの研究は今後、『生きたロボットは生物なのか機械なのか?』という難しい問題に直面する事でしょう」と回答し、倫理的な課題は避けられないことを示しました。
関連文献
Scientists Have Created Nanorobots That Can Travel Down the Bloodstream and Precisely Target Cancerous Tumors
http://sciencenewsjournal.com/scientists-created-nanorobots-can-travel-bloodstream-precisely-target-cancerous-tumors/
<ブログ著者の感想>
細胞はある種の機械仕掛けのロボットという考え方ができると思ったし、合成生物学、バイオインフォマティクスの観点から新たなロボット(細胞)を作り出し、治療や人体改造などに応用していく可能性があるなあと思いました。
死を遅らせるプラナリアの幹細胞
死を遅らせるプラナリアの幹細胞
参考文献
Injury Delays Stem Cell Apoptosis after Radiation in Planarians: Current Biology
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(20)30424-3
Stem cells shown to delay their own death to aid healing | Cornell Chronicle
https://news.cornell.edu/stories/2020/05/stem-cells-shown-delay-their-own-death-aid-healing
全身幹細胞で構成されていることで知られているプラナリアですが、コーネル大学の研究チームは大量のプラナリアを放射線にさらし、そのうち半数は放射線にさらした後に傷つけました。
傷をつけていないプラナリアの幹細胞は予想された量死んでいることが分かり、傷をつけた方のプラナリアでは幹細胞が予想よりも死んでおらず、傷の周囲に集まって組織の再生を開始していたとのことです。
Divya Shiroorの見解では「放射線に被ばくした直後に動物が負傷した場合、放射線によって誘発される避けられない細胞死が、大幅に遅延する可能性がある」とコメントしました。
プラナリアは人間と共通の機能を持っていますが、プラナリアは構造的にシンプルであり、人間のような複雑な免疫系を持ち合わせておりません。そのため、人間が負傷した場合、免疫系の炎症などのプロセスによって幹細胞の修復プログラムを邪魔しますが、プラナリアは炎症のプロセスに邪魔されることなく幹細胞による修復を行うことができます。
SF漫画 テラフォーマーズ
研究チームは、プラナリアが傷ついた際、アポトーシス(細胞死)の中心的な調節因子であるMAPキナーゼERKが活性化することによってアポトーシスの誘発を抑え、放射線による細胞死を遅延させているのではないかと結論づけています。
幹細胞による細胞死の遅延メカニズムを理解できれば、放射線治療や化学療法などのがん治療の研究などに影響を与える可能性があるとのことです。また、幹細胞の死を遅らせる能力に関連する、哺乳類と共通した遺伝子を特定することで、既存の治療法を改善できるかもしれないとShiroor氏は述べました。
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群とは健常人に比べて老化の速度が速い病気です。以前の投稿でrapamycinというハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群に対する新薬についての記事
を書いたときにted talkで話すSam Berns君について思い出したので、下に動画をシェアしようと思います。ぜひ見てみてください。
Sam Berns君 2013年 17歳
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群とは健常人に比べて老化の速度が速い病気です。以前の投稿でrapamycinというハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群に対する新薬についての記事
を書いたときにted talkで話すSam Berns君について思い出したので、下に動画をシェアしようと思います。ぜひ見てみてください。
Sam Berns君 2013年 17歳
新薬開発 rapamycin ~不老不死をもとめて~
新薬開発 rapamycin ~不老不死をもとめて~
参考文献
The forever young drug: Scientists make sick and ageing cells healthy again
Hayley Okinesさん 2011年 13歳
米国政府の健康研究所に所属し、ヒトゲノムを解読したCollins博士は、全身の老化が異常に進行する早老症疾患で、12歳までに老衰により命を落としてしまうことの多いハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群の子どもたち3人の皮膚細胞を用いて「rapamycin」という薬品の効果を確かめるために実験を行いました。
Hayley Okinesさんは社会的には12歳ですが、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群の影響で健常者の8倍の速度で老化が進行しているために12歳ごろにはおよそ96歳に相当する老化が進行しています。
このハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群の患者の体内では、突然変異した有毒なタンパク質「progerin」が体中すべての細胞で増殖するために、急速な老化が引き起こされます。しかし、The journal science translational medicine誌にて、この患者に「rapamycin」を投与したところ、その有毒なタンパク質を細胞から追いやって、細胞を正常な状態にすることに成功。しかも、細胞自体の寿命も延びたということが報告されました。
Progerinは健常者の体にも微量に存在し、老化を引き起こす物質の一つと考えられており、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群の患者と一般的な人の老化プロセスには共通項があるため、rapamycinの研究が進めば、老化を防ぎ寿命を延ばすことができる可能性があります。
rapamycinの成分はイースター島の土壌から発見されたバクテリアから精製されたもので、一般の患者にも移植の際に免疫系を抑えるために使われています。今後はrapamycinの研究が進み、一般向けの老化防止剤としての利用についても研究が進められるかもしれません。
<ブログ著者の感想>